SHEINのための苦役 

中国「ウルトラ・ファストファッション」最大手の
輝かしい外観の裏側を探る 

中国からロケットのようにお届け! オンライン衣料小売企業のSHEIN(シーイン)は、圧倒的低価格の衣料品を豊富に取り揃え、ソーシャルメディアを大胆に活用することで、いまやH&Mや Zaraといった業界最大手と肩を並べて、若い女性たちのお金と注目を獲得している。だが、オンライン上の華々しい存在感にも関わらず、このブランドの背後にある企業の実態は依然として不透明だ。パブリック・アイ(Public Eye)はこのブランドの暗い側面に光を当てる調査に取り組んだ。中国南部の大都市、広州の曲がりくねった路地で、10代の少女たちの夢をかなえるため、1日12時間も生地を縫い合わせる何千人もの労働者の姿が見えてきた。 

ウィリー・ゴメスが感激している! カリブ海出身のこのポップシンガーは「SHEINがこんなショーを実現してくれて、とても嬉しい。すべての民族、あらゆる体型やサイズの人を本気でサポートしているよね。すごくインクルーシブだ」と喜ぶ。切り替わって、今度は舞台裏。マスクをつけたウィリーが言う。「準備できたぞ。さあ、行こう。」 

また場面転換! キャデラックから降りてきたウィリーは、涙を誘うラテンの曲をエネルギッシュに演奏する準備をする。多様性に十分配慮して選ばれたダンサーたちが一緒だ。背の高い人、低い人、ぽっちゃりした人、細身の人、出身や肌の色もさまざま。豪華な衣装を身にまとい、次々と入れ替わる。 

ウィリー・ゴメスの次は、ブルー・ディティガーの出番だ。ニューヨーク出身、シンガーでベースギタリストの彼女は、「歌も歌ってベースも弾く人は私の他に聞いたことがない」と言い(もちろん、若すぎてスティングのことを知らないのだ!)、SHEINが「ファッションショーのあり方に革命を起こしている」と断言する。ダンスフロアはカラフルなネオンで彩られ、あとは、フロアの巨大な白いSHEINのロゴ以外黒一色だ。観客はいない。どこにでもあるような、それでいてどこでもない、そんな場所になっている。 

「ファッションの躍動感、音楽のエネルギー、ダンスのパワーが一体となって織りなす布のよう」9月下旬にユーチューブ、インスタグラム、SHEINのアプリで生配信された「Shein X Rock the Runway」発表会の紹介文には、こうある。 

その後数日間は、ウェブサイトの #SHEINXRockTheRunway のコーナーから6,000種類もの衣料品が注文できるようになっていたが、配信から10日後、突然メニューアイコンが消えてしまった。 

「今日の新着」サイトにはこの日8,017点の新商品が上がっていた。 

だが、選択肢は依然として間違いなく豊富だった。10月初旬のある水曜日の午後、「レディース衣料」のカテゴリーには259,264点、プラスサイズのコーナーには78,000点超、「メンズ衣料」には約32,000点の商品が並んでいた。衣類は「今日の新着」タブで絞り込むことができる。 

「プラスサイズ」衣料は XLから 4XLまで10,000点。 

この日追加された商品は全部で6,753点。その多くは、ぽってりした唇でウエストが細い曲線美の女性が着て見せている。モデルはきわどいポーズをとっていることが多く、下品すれすれのものもある。価格は、ゼブラ柄の ホルタートップ が8スイスフラン(8.75米ドル)、パフスリーブのデニムジャケット  が22スイスフラン。この日追加された商品で最も高価なヘビ皮の トレンチコートは65スイスフランだ。新しく追加された商品の3分の2は20スイスフランを下回る価格になっている。 

SHEINはどのようにしてここまできたのだろうか? SHEINとは何者なのだろうか? 

「SXY」は SHEIN独自のカテゴリーだ。 

SHEINとは何者?今年5月、SHEINのアプリがアマゾンのアプリを抜き、アメリカで最もダウンロードされているショッピングアプリになったと 報じられたとき、初めてこの疑問を感じた人が多い。 

30歳より上の年代にはほとんど全く気付かれないまま、SHEINは短期間のうちに、オンライン衣料業界最大手のひとつに成長した。これは、ソーシャルメディアのフォロワー数から明らかだ。10月初旬の時点で、インスタグラムでは2,200万人、フェイスブックでは2,300万人(H&MやZaraの約半数)、TikTokでは280万人(競合2社の数倍以上)ものフォロワーがいた。  

「今日の新着」サイトにはこの日8,017点の新商品が上がっていた。 

「今日の新着」サイトにはこの日8,017点の新商品が上がっていた。 

「プラスサイズ」衣料は XLから 4XLまで10,000点。 

「プラスサイズ」衣料は XLから 4XLまで10,000点。 

「SXY」は SHEIN独自のカテゴリーだ。 

「SXY」は SHEIN独自のカテゴリーだ。 

企業情報 

“Shein Hauls”(訳注:「SHEIN買ってみた」)は一種のアートになっている。若者(主に女性)が配達された商品を開封し、身につけて、カメラの前で感想を述べる。ユーチューブにアップされたこれらの動画の中には数百万回再生されたものもあり、ハッシュタグ#sheinhaulが付いたTikTokの投稿は合計で37億回再生されている。その意味するところはただひとつ、尋常ならざるペースで注文殺到中!ということだ。 

SHEINは収益に関する情報を一切開示していない。2020年12月に出され、以来繰り返し引用されている、ある中国語のレポートによると、同社のこの年の売上は100億米ドル近かった。中国のある大手証券会社は2021年のSHEINの収益を200億米ドルと予測している。 

SHEINのウェブサイトに企業情報はほとんど掲載されていない。サイトには同社が「国際B2Cファストファッションeコマース企業」だとある。B2C (Business-to-Consumerの略)は企業と一般消費者との直接的なビジネス関係を表す。SHEINの主な市場は「ヨーロッパ、アメリカ、オーストラリア、中東、およびその他の消費市場」で、計「150以上の国と地域」に展開しているとしている。商品がどこから発送されているのかは載っていない。親会社の住所が、そのスイスのウェブサイトの奥付に記されているのみだ。親会社はゾートップビジネス(Zoetop Business)といい、香港に本社がある(会社組織についての調査で判明した)。 

成功の秘訣 

SHEINについて、関連ポータルサイトにいくつかある包括的な分析をもとに簡潔に言うと、SHEINの前身となる企業は2008年に中国東部の都市、南京において3人の男性によって設立された。当初はウェディングドレスを主に販売していたこの会社の創業者のひとりは、検索エンジン最適化のスペシャリスト、許仰天(Xu Yangtian)である。その後他の創業者は去り、2012年、許はsheinside.comというドメイン名で女性向けファッションの販売を始めた。このビジネスが2015年から本格的な成長を遂げる。 

主な成功要因は以下のように要約できる。 

  • 高額の維持費がかかる実店舗の代わりに、商品を直接配送 
  • オンライン・ツールを徹底的に活用してトレンドを把握 
  • アプリ内で自動的に購買行動や動向を分析 
  • インフルエンサーの影響力を大いに利用 
  • 2017 年に中国南部の広州に本社を移転、ほとんどが小規模な同地のサプライヤーを高密度なネットワークでつなぐ。 

これらのサプライヤーはすべてSHEIN独自のソフトウェアに組み込まれており、これによって注文はサプライヤー間で自動的に割り当てられる。この仕組みがあるため、SHEINは他に類のないスピードでトレンドに対応することができる。 

これまでファストファッションの代名詞だったZARAの生産サイクルは、3~4週間。一方SHEINは、デザインから梱包まで、商品生産の全工程を1週間以内に完了できるとされている。 

SHEINも時には自社の急成長に対応しきれなかったことがある。2018年には、以前サイバー攻撃により600万人以上の顧客のユーザー名とパスワードが盗まれていたことが明るみに出た。2020年7月には、1週間に二回も新聞の見出しを飾っている。一回目はイスラム教徒の祈祷用敷物を「ギリシャ絨毯」として販売し、二回目は、一回目の事件で謝罪した直後に、鉤十字のペンダントをつけた金のチェーンをサイトに掲載したのだ。オンライン上のレビューを操作していると繰り返し批判されてもいるし、SHEINにデザインを盗まれたとデザイナーが証明している事例は枚挙に暇がない。 

しかし、これらのスキャンダルは、SHEINの急速かつ着実な成長に、そして同社が謎に包まれたままであるという事実にも影響を及ぼさなかった。 

いまだに何ら公開情報がない重要な疑問の一つは、この低価格ブランドの衣料品がどこで、どのような条件のもとで生産されているのか、ということである。 

調査 

2020年末、パブリック・アイはこの疑問に答えるという任務を自らに課した。中国南部にある労働者の権利擁護に取り組む団体(安全上の理由から団体名を公表することはできない)に連絡を取り、2021年4月、2人の調査員が、香港の北約100キロに位置する珠江デルタの大都市、広州でSHEINのサプライヤーを探し始めた。 

その後数週間で、調査員はSHEINに商品を供給する計17社を探し出すことに成功した。そのうち7社は番禺区の南村という地区にあり、7月に調査員のひとりがここで働く女性労働者3人と男性労働者7人から聞き取りを行うことができた。これらの労働者は別々の6社で、ミシンやキルティングマシンの操作、品質管理や包装部門の仕事、 アイロンかけや生地の裁断などに従事して生計を立てている。全員地方出身で、この業界で何年、何十年という経験がある。ほとんどが現在の会社で働き始めてから1年にもなっていない。 

番禺の通り。番禺は人口1,600万の大都市、広州の区のひとつ。  

番禺の通り。番禺は人口1,600万の大都市、広州の区のひとつ。  

私たちは、調査の結果や聞き取りでの発言内容を記した詳細な報告書を受け取った。携帯電話で撮影した写真が載っており、袋で埋め尽くされた工場の通路や、作業台で立ち仕事をする労働者、「SHEIN」と印刷されたビニール袋に詰められたTシャツの山、煌々と照らされた作業場の様子がわかる。 

私たちは現地調査員の姿を知らない。ビデオ通話で調査結果を報告する際、調査員はカメラをオフにしている。中国政府の監視装置のレーダーに捕捉された場合の危険が非常に大きいためだ。 

調査員について言えるのは、これまで20年ほど、調査研究、社会運動、労働者教育に携わって活動してきた人であるということだ。彼女はこの地域の繊維産業について深い知識を有するが、SHEINというブランドについては、私たちが尋ねるまで聞いたことがなかったと言っている。 

「SHEIN村」における安全対策の欠如 

調査員は南村について報告する。ここにもともとあった村の名で呼ばれている地区で、わずかな数の通りに小規模工場の作業場が数十もひしめきあっている。こうした小さな工場の多くは、当初は住居用だった建物のなかにある。ある工場の経営者は調査員に対して、南村で生産している衣料はほぼ「全部」がSHEINに納入されると話したが、これには驚いたと調査員は言う。このような小規模で公的な事業登録もないようなところでは、普通は地元ブランド向けの商品を生産しているからだ。グローバル企業は概して、より規模が大きく、規制にもある程度則って操業している業者をサプライヤーに選ぶという。 

Un couloir encombré de sacs de vêtements

火災が起きても逃げ道がない。通路は袋にふさがれ… 

火災が起きても逃げ道がない。通路は袋にふさがれ… 

L'entrée de l'atelier, encombré de sacs de vêtements.

…出口はこの状態。(南村の、ある SHEINサプライヤー) 

…出口はこの状態。(南村の、ある SHEINサプライヤー) 

生産現場は、拡大を続けるこの地区の曲がりくねった通り同様に狭い。衣類の入った袋や生地のロールが通路や階段をふさいでいる。これは、数多くある小規模工場だけでなく、「SHEIN村」にいくつかある比較的大きな会社でも同様だ。こうした会社のひとつには、従業員によると、小さな工場が7つあり200人以上が働いている。壁に貼られたポスターには、この会社がSHEINの親会社である「ゾートップの主要サプライヤー」であり、1日120万点の衣料品を生産していることが記されている。 

調査員は、非常口が一つも見当たらなかったこと、また、入り口や階段からすぐに労働者が出られる状況ではないことを指摘し、さらに、上階の窓には鉄格子がとり付けてあることも報告している。これらを検討して「火災が起きたらどんなことになるか、考えたくもありません」とまとめる。 

9月にSHEINは サプライヤー行動規範をウェブサイトで初めて公開した。規範には「サプライヤーは、安全で衛生的かつ健康的な職場環境を提供すること」などが明記されている。しかし、この点に関してするべきことがまだたくさんあるのは明らかだ。 

フルタイムの仕事2つ分の労働 

調査員は、7社のうち1社で働く女性労働者1人と男性労働者2人から長時間話をきくことができた。聞き取り事項の記録でまず目につくのが労働時間だ。3人ともほぼ同様に、午前は8時から正午まで、午後は1時半から5時45分まで、その後夜7時から10時もしくは10時半まで働くと答えている。1週間のうち6日は夕食後にも働いており、休みは月に1日だ。 

これは1週間に換算すると75時間を上回る労働時間になる。 

このような働き方は、サプライヤーが「労働時間を適切に調整する」というSHEINのサプライヤー行動規範に掲げられた項目に反するだけでなく、様々な点で違法である。中国の労働法の規定では、1週間の労働時間は最大40時間であり、時間外労働は月36時間を超えてはならず、休日は毎週1日以上与えられなければならない。 

縫製労働者は一日平均11.5時間働く。 

縫製労働者は一日平均11.5時間働く。 

調査員によれば、繊維産業においてこのような労働時間は珍しいことではなく、労働者の多くはこのくらい長時間働くことを希望しているという。彼らはみな「移民労働者」、すなわち地方出身で都市に働きに出て来ている女性や男性だからだ。地方の賃金は都市より大幅に低い。移民労働者の多くは都市に一定期間滞在しているに過ぎず、家族は一緒に来ていない。すべきことはできるだけ多く稼ぐことだけなのである。「会社の事務所では広州出身者が見つかるかもしれないが、生産現場には移民労働者しかいない」と調査員は指摘する。 

1日の仕事が終わるのは午後10時半が普通だ。 

1日の仕事が終わるのは午後10時半が普通だ。 

実質仕事2つ分になる時間働く覚悟があれば、比較的よい収入を得ることができる。3人がみな、賃金は衣料品1点ごとの歩合で支払われ、複雑な品ほど単価が高くなると聞き取りで述べたことが記録されている。うち1人は、ここでは一般的に、1点あたりの賃金がこれまで働いてきた場所のどこよりもかなり低い、と述べている。しかし、求められる品質も特に高くはないという。 

良い月には手取り1万元、約1,400スイスフラン稼げるが、悪い月にはその3分の1にしかならないこともある。時間外労働に対する割増は支払われない。 

特筆すべきもう一つの点は、3人とも雇用契約を交わしていないと述べていることだ。「こういった工場では契約書を出さなくてもよい」、現実はどうあれ労働者はそう思い込んでいる。 

話をきいた10人の労働者は誰も雇用契約を結んでいなかった。 

話をきいた10人の労働者は誰も雇用契約を結んでいなかった。 

公的な事業登録もない小さな工場で雇用契約がないのはごく普通のことだ、と調査員は述べている。しかし、従業員が100人以上もいる会社で契約書を出していないというのには大変驚いたそうだ。中国の労働法では、契約書を発行し、従業員に一部渡すことが企業に義務づけられている。契約書を交付しなかったために訴えられた場合、かなりの額の賠償金を支払うことになるので、この規模の会社ではそのようなリスクは避けるのが一般的だ、と調査員は述べた。 

高度に自動化され、極めてフレキシブル 

中国のソーシャルメディア・プラットフォームであるウィーチャット(WeChat)には、SHEINが生産条件を公表し、それに対して製造業者が入札することができる投稿が多数あげられている。製造業者はその後、デザインに合致する生地を、同じくSHEINが紹介するサプライヤーから購入する。こうすることで、SHEINは労働条件に責任を負うことなく、サプライチェーン全体をコントロールすることができる。 

SHEINがこれらの会社に対して何らかの監査を行っているかは私たちにはわからないが、アメリカのSHEINのウェブサイトに掲載された声明は、同社が監査体制に「相当な努力と資源」を割いていると主張している。また、パートナーの製造業者や完成品販売業者に対して、以前は事前に通知して監査を実施してきたが、今後は追加で内部監査を実施し、その場合事前通知を行わずに実施することもある、としている。しかし、調査員が聞き取りを実施した10人のサプライヤー従業員のなかで、監査が行われていることを知っている者はひとりもいなかった。 

比較的規模の大きい工場では、出勤時と退勤時にタイムカードに打刻することを促すポスターが壁に貼られている。工場の経営者がそのデータをSHEINと共有し、SHEINはこれを受けて工場の労働力に応じて契約を出しているという。このような、コンピュータを駆使した非常にフレキシブルなサプライヤー・システムによって、生産に関わる何百という小規模業者を効率的に一つの組織のようにつなぐことが可能になっていると見られる。 

SHEINの注文はほとんどがわずか100から200点ほど、場合によってはもっと少ない。 

ある商品の売れ行きが良ければ、SHEINは追加注文をかける。通常、最初にその商品を生産したサプライヤーに発注される。 

サプライヤー企業に「出退勤時のタイムカード打刻がSHEINの注文を確保する」とのポスターがある。労働者が何人いるかをSHEINは常に把握している。 

サプライヤー企業に「出退勤時のタイムカード打刻がSHEINの注文を確保する」とのポスターがある。労働者が何人いるかをSHEINは常に把握している。 

これは従業員にとって喜ばしいことだ。作ったことのある衣料を作るので、一点あたりの作業時間を短くすることができ、結果的に収入も増えるからである。SHEIN向けの製品を作るうえで最も厄介なことの一つは、従業員が常に新しい裁断パターンに慣れなければならないことで、これが、聞き取りに応じた裁断従事者の仕事を複雑なものにしている。 

高い期待 

発注される量が少なく、各商品を非常に短時間で生産することが求められるため、分業を導入することは困難だ。工場の縫製労働者は、常に変更されるパターンに合わせて、多くの異なる作業をこなして商品を完成しなければならない。こうした工場にいる女性や男性はほとんどが何年も何十年もこの業界で働いてきた人々であるのは、こうした理由だ。経験の乏しい労働者にはとても務まらない仕事なのである。 

生産量は少なく、仕事は難しい。SHEINの注文はほとんどが200点未満。 

生産量は少なく、仕事は難しい。SHEINの注文はほとんどが200点未満。 

その結果、労働者は常に新しいパターンと格闘しなければならない。 

その結果、労働者は常に新しいパターンと格闘しなければならない。 

一方、比較的容易にできる衣料品を短時間でつくれる労働者が、不安定な中国の繊維産業のなかで、より多くの収入を得られるような他の仕事をいろいろと見つけられるかとなると、その可能性は低いと現場を知る専門家は言う。調査員の報告では、聞き取りに応じた労働者のほとんどは多かれ少なかれ自分の仕事に満足している様子だったが、「この人々が自身の仕事について深く考えているとは思えない」とのことだ。 

経験豊富な縫製労働者だけがこなせる、厳しい要求水準の仕事だ。 

経験豊富な縫製労働者だけがこなせる、厳しい要求水準の仕事だ。 

中国メディアの報道によると、広州市番禺区に300〜400社ある「主要サプライヤー」のネットワーク以外に、こうしたサプライヤーから注文を受ける約1,000社の下請け業者も、SHEIN商品生産の一部を担っている。工場の外に、繊維製品を運ぶための荷車が停まっているところもあり、下請けのビジネスが盛んであることが見て取れる。ここ南村にある小規模業者の多くは、糸の始末やアイロンがけ、梱包、積み込みといった、最後の仕上げの作業を行うだけだが、ウィーチャットのプラットフォーム上では、最終的な加工作業の入札募集は行われていない。したがって、こうした業者がSHEINサプライヤーの下請けとして働いていることはほぼ間違いないが、こうした業者の工場で事故や賃金の未払いが発生しても、SHEINは責任を感じたりはしないはずであるということもほぼ間違いない。 

雇用契約も社会保障もない 

SHEIN村から西に30分ほど歩いたところにある鴻匯物業大廈という建物には非常に多くの繊維工場が入っている。ここは規制遵守の面では、南村よりもあらゆる点でまだましだ。通路は広く、非常口にはそれを示す表示がある。こうした小規模工場では、最も多いところで200人が働いている。調査員は、それぞれ別の会社で働く女性労働者1人と男性労働者1人に話を聞くことができたが、南村と同様のことが報告されている。 

労働者の賃金は歩合制、基本給も時間外労働の割増もない。1日11時間働き、休日は月に1日か2日。 

労働者は雇用契約書を持っていない。法律が労使双方に社会保障分担金の拠出を義務付けているにもかかわらず、労働者には社会保障を受給する権利がない。 

聞き取りに応じた労働者がそれよりもはるかに気にかけているのは、最近歩合の製品単価が下がり始め今も続いていることと、同時に、工場でより複雑な商品ばかりがつくられるようになってきていることだ。単純な仕事は、例えば、江西省、広西チワン族自治区、湖南省などといった、ここよりも賃金の低い省に外注されることが増えていると言う。実際、建物の横に停まっているミニバンの側面には、江西省のさまざまな区の名称が書かれている。この車は、内陸部で製品化される裁断済みの生地を運ぶある種の「タクシー」だ。内陸部ではどのような労働条件や賃金レベルのもとで生産されているのか、私たちにはわからない。 

夜の鴻匯物業大廈。 

夜の鴻匯物業大廈。 

再び調査員の報告に従って西へ数キロ行くと、そこにもまた小規模な繊維工場が非常に多くある。ここの工場は一般的にやや規模が大きく、最大で300人が働いている。概ね、換気システムが比較的まともに機能しており、作業場も他のところよりやや広い。周辺には従業員用の食堂や寮もある。比較的大きい会社で働く5人が調査員の聞き取りに応じて語る労働条件は、これまで見てきたものと同様だ。 1日11時間労働、雇用契約はなく、社会保障の分担金もない。 

うち一社には、これまでどの会社でも聞かなかったことがある。最低所得保証だ。工場の入り口に貼られた求人用ポスターには、作業別に、糸の始末4,000元、梱包5,000元、アイロンかけ7,000 元の最低賃金が記されている。アイロンかけは蒸気のため常に高温にさらされ、またほぼ立ちっ放しの仕事であることから、賃金に差がつけられているのだという。 

配送 

工場の廊下で、調査員は女児用ドレスのスナップ写真を見ることができた。白いポリエステルに青い花がプリントされたシンプルなものだ。このようなドレスの場合、縫製労働者が受け取る賃金はおそらく1点あたり3元(0.47米ドル)以下、と調査報告では推定されている。このドレスはSHEINの ウェブサイトで確認することができる。価格は11スイスフランで、すでに200以上の評価がついているが、別に驚くことではない。SHEINからアプリを使って購入した衣類にコメントすれば、次回以降の購入に使えるポイントが誰でも得られるからだ。ほぼすべてのコメントがアラビア語で書かれているが、「すごーーーーく好き!」「うちの子はとても気に入っている」など英語のコメントもいくつかある。 

筆者は9月7日にドレスを注文した。CHスペシャルというクーポンコードのおかげで(常に何かしらのクーポンが提供されている)、購入価格は1.10スイスフラン割り引かれ、9.90スイスフランになった。送料はなんと6.41スイスフラン。一点だけ購入することが想定されていないのは明らかだ。翌日には、注文したドレスが「国際倉庫」で梱包され、パッケージは消毒、殺菌されて発送されたことを知る。国際倉庫の場所は、注文概要にもSHEINのウェブサイトにも示されていない。 

倉庫での長時間労働 

協力団体の調査担当者もこの点を追求し、SHEINの巨大倉庫がアンボとよばれていること、この倉庫はアメリカの物流企業プロロジスが所有しており、広州の工場から車で1時間ほどの仏山市にあることをつかんだ。1万人ほどの労働者が働き、倉庫は24時間365日稼働している。 

複数の調査員が計12回労働者に聞き取りを行い、以下のような状況がわかった。労働時間はここでも非常に長く、通常1日12時間程度、繁忙期には14時間にもなる。労働者は最低でも月22日、ほとんどの人が月24日から28日仕事をする。この理由は主に、23日目以降は受け取る単価が2倍になるからだ。つまり、この倉庫でも、労働者が仕事2つ分働くことをを厭わなければ、魅力的な収入を得ることができるようになっている。通常時は7,000元(約1,000スイスフラン)、繁忙期には最大で5割増になる。しかし、このような労働時間は中国の労働法に違反している。 

プロロジスの広報担当者にコメントを求めたところ、次のような回答があった。「当社所有の賃貸用施設内で、当社の顧客が行う事業の運営には、その顧客が責任を負います。ご指摘の件に関し、当社ではコンプライアンス違反について把握しておりません。」 

注文から9日後、ドレスが届いた。ビニール袋から取り出しポリエステルに触れると、返品したい欲求にかられた。しかし返送の宛先は、これまで長らくヨーロッパからの返品の送り先だったベルギーのリエージュにある物流センター (ここも以前調査したことがある)ではなく、香港の住所になっている。返品にいくらかかるのかインターネットで調べたが、大きな封筒になんとか入れることができたとしても9スイスフラン、最初に買った値段とほぼ同じになる。 

広州の工場で見つけたドレスを… 

もし筆者がドイツに住んでいたら話は違っていた。同僚のデヴィッド・ハックフェルドも同じドレスを彼のドイツの住所で受け取ることにして注文したので、わかったことだ。彼も筆者同様このドレスを返品しようとしたが、SHEINはそれを好まなかった。「今日はあなたにとって幸運な日です!この商品はあなたのものです。お代はいただきません」と彼に伝えてきて、購入代金を全額払い戻したのだ。返品の対応が異なるのは、ドイツでは「返品時の送料は無料」と広告しているため、SHEINが返送料を負担しなければならなくなるからだ。返送料が10ユーロのドレスに見合わない額になるのは明白である。 

「できるだけ速く作ろうとしたことがよくわかります」 

返品はしないことになったが、ではせめて手元に残ったこのドレスがどれほどの品なのか専門家に確認したいと思った。そこでトゥーンのIDM縫製訓練センターで、ファッションクリエイターを目指す生徒たちに、このドレスの品質について考えを聞いてみる。公平な評価をしてもらえるよう、SHEINのラベルは隠しておいた。結果は、よいものではなかった。 

…トゥーンのIDM縫製訓練センターで未来のファッションクリエイターたちが点検する。 

「あ、きちんと縫い合わせていない箇所がある。」縫い目を点検していた生徒が言う。「縫い目の周りにこんなにシワがあってはだめだ。アイロンをかけなかったんだろう」と別の生徒。さらに「糸の張りがよくない」「縫い目が均一でない」「ここの糸は始末しないと」などの指摘もあった。 

ある生徒は次のような結論に達した。「できるだけ速く作ろうとしたことがよくわかります。」  

センターの教員たちにも、他のSHEINの衣類数点と一緒にこのドレスを見てもらった。彼らの評価はそれほど悪くはなかった。作りの良し悪しはあるが、全体としてはファストファッションの平均的なレベルだそうだ。ただ物によっては、生地がかなり安手で店頭で売るとしたらおそらく苦労するだろう、とのことだった。 

広州の工場で見つけたドレスを… 

広州の工場で見つけたドレスを… 

…トゥーンのIDM縫製訓練センターで未来のファッションクリエイターたちが点検する。 

…トゥーンのIDM縫製訓練センターで未来のファッションクリエイターたちが点検する。 

結論 

この旅の最後は再び東へ向かう。トゥーンという小さな町から約9,000キロのメガシティ、広州の状況から、いくつかの結論を導き出してみよう。SHEINの衣類の価格から超低賃金労働を想像していた人は、まずはかなり驚くことだろう。SHEINの服をつくる仕事では、なかなかよい金額が得られる。グローバルサウスの労働組合や市民団体で構成されるアジア最低賃金同盟(Asia Floor Wage Alliance)が算出した生活賃金の月額5,410元を大幅に上回る収入だ。 

しかし、このような比較は根本的に誤っている。私たちが話を聞いた10人の労働者全員が、仕事2つ分に相当する長時間労働をしているからだ。労働者たちは1日に11、12、ないし13時間、ほとんどの週に7日間働く。時間外労働の割増もない。 

SHEINサプライヤーの従業員たちは、最低限の安全も自由時間、QOLも犠牲にして働いているが、こうした働き方を受け入れているのは、そうするしかないと感じているためだ。SHEINのビジネスは、この事実を狡猾に、全面的に利用して成り立っているのである。 

話をしてくれた労働者は全員雇用契約書を持っていなかった。調査した範囲には、社会保障費分担金が支払われているケースは一件もなく、会社の多くは最も基本的な安全基準すら遵守していない。これらはすべて中国では法律違反にあたる。 

SHEINは自身のサプライヤー行動規範において、下請け業者に対し「現地の法律、規則、行政命令、および規制による必要事項を完全に遵守して操業する」ことを求めている。 

私たちの調査内容をSHEINに突きつけると、直ちに自動返信の確認メールが届いた。

「SHEINのサステナビリティチームはご提案・フィードバックを受領いたしました。できるだけ早急に関係事項を調査いたします。ありがとうございました。」 数日後にリマインダーを送ったが、コンピュータが自動作成した同じメッセージが再度返ってきた。私たちのメールを人間が読んだのかどうかもわからない。

大手メディア数社の編集者が私たちの調査結果を示してSHEINに質問をしたところ、報告書公表の前日になって、「SHEINテクノロジー」のアメリカ広報副代表という人物から連絡があった。 私たちは質問項目をこの人あてに転送し、数時間後短いメッセージを受け取った。「報告書を未入手で内容が精査できていないため、SHEINとしては現時点で特にコメントはございません。当社はサプライチェーンの問題すべてに真摯に取り組んでおります。またのご連絡をお待ちしております。」 

SHEINのウェブサイトでは、6色から選べるフードつきパーカー が9スイスフランで売られている。それには何と書かれているだろうか。「おもしろい事実:気にしない」だ。 

 

パーカーに書かれた言葉「おもしろい事実:気にしない」はこの企業のビジネス倫理を的確に表現している。 

パーカーに書かれた言葉「おもしろい事実:気にしない」はこの企業のビジネス倫理を的確に表現している。 

 

グローバル・ジャスティスに焦点をあてる 

スイスの国および企業が世界のどこにおいても人権を尊重する責任を果たすこと。これを確実にするため、パブリック・アイはキャンペーンに取り組んでいます。この報告のようなレポートは、市民からの支援によって実現されています。寄附をする 

奥付
調査: デヴィッド・ハックフェルド、ティモ・コルブルンナー 
写真: パノス・ピクチャーズ

謝辞
私たちに情報を提供してくれた労働者と労働組合関係者に、番禺での現地調査担当者ーこの方たちがいなかったら同地の労働条件について何ら情報を得ることができませんでしたーに、また、正確な予備調査をしてくれたアパルナ・ロイ、ベルギーでサポートしてくれたセドリック・ルテルメとachACT のみなさんに感謝します。